◆ファンの方から認めてもらいたい…
11歳でSKE48の1期生に選ばれると同時にAKB48のWセンターに抜擢され、それが元で握手会やコンサートで本人に責任のないバッシングを受けてきた松井珠理奈
彼女にとって「ファン投票イベント」で頂点に立つことは、自分の存在意義を確かめる上で欠くことのできないものとなっていた
本拠地のSKE48で開催されたリクエストアワーでは、自身の参加曲が1位になったことは一度もない(2015年6月現在)
前田敦子とWセンターを務めた『大声ダイヤモンド』、じゃんけん大会の優勝曲『鈴懸の木の道で「君のことを夢に見る」と言ってしまったら僕たちの関係はどうなってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの』とも、リリース直後のランキングで2位に終わっている
俗に「楽曲の総選挙」と言われるリクエストアワーだが、現在は、形を変えた選抜総選挙の様相を呈しているのは周知の事実。ファンも、自分たちの応援しているメンバーの参加曲が少しでも上位に来るよう、集票活動を行っている
そういう中で自分の参加曲が1位に輝けば、嬉しくない訳がない。ましてや、じゃんけん大会で選抜入りしたメンバーにとっては、「自分たちの曲が選抜メンバーのシングルよりも支持を受けた」という自信にも繋がる…
AKB48のリクエストアワーとは、そういったイベントなのである
2015年1月の同イベントでは、全対象曲の順位を発表するという初の試みが行われた
その中の上位200曲は、5日間に渡るコンサート形式で発表。珠理奈のファンの多くは、前年2位の『鈴懸…』に投票していた。「ファンの方から認めてもらいたい」という珠理奈の熱意が、ファンの心を突き動かし、頂点からの景色を見せてあげたいという団結心を生んでいた
◆仲間とともに、頂点へ
最終日のリハーサルで、珠理奈とじゃんけん選抜のメンバーたちは『鈴懸…』が上位3曲に入っていることを知っていた。だが、正確な順位は伝えられていなかった
本番前のリハーサルも「仮装順位3位」で行ったと、後に珠理奈本人が語っている
トップ3は、年内の卒業を発表した高橋みなみのソロシングル『Jane Doe』、同じく卒業を控えているNMB48の山田菜々が、山本彩と歌う『友達』、そして2013年じゃんけん大会の選抜メンバーによるシングル『鈴懸…』。どれが1位に選ばれても不思議はなかった
まずは3位、『Jane Doe』が発表された
続いて2位。モニターに映し出された曲名は漢字二文字。この瞬間『鈴懸…』の1位が確定した
前年2位からのステップアップ。じゃんけん選抜メンバーとともに掴んだ初のファン投票イベント1位は、仲間を大切に思う珠理奈らしい勝利だったと言えるかもしれない
ラスト1曲の発表で、決して見紛うことのない71文字の曲名がモニターに踊る
そして、16人のメンバーが登場。この日、珠理奈は初めて、ファンの後押しで頂上からの景色を眺めることができたのである
◆18歳の決意
2015年3月8日。松井珠理奈はついに18歳になった
それまでは、年齢制限の規制で深夜の時間帯のテレビ出演はNG。AKB48の選抜メンバーに入っていても、SKE48の活動優先という名目でポジションをアンダーに譲らざるを得ないことも、数えればきりがないほどあった
プロデューサーに特別扱いされていると非難する人もいるが、有名芸能事務所にも所属せず、ソロ仕事も少ない珠理奈は、本当に贔屓の対象になっているだろうか?
むしろ、彼女ほど努力が報われずにいるメンバーは、ほとんどいないのではないだろうか…?
早く大人になりたくて、精一杯背伸びをした時もあった。総選挙でランクを落とした後は、自分は可愛い女の子キャラではないと卑下するような発言も見られた。だが、18歳になってようやく、珠理奈は大勢の大人メンバーと同じ立場に立った。待ちに待った、勝負の年がやってきたのである
誕生日当日に行われた生誕祭では、チームSのメンバーにチームEの松井玲奈が加わり、1期生全員が同じステージに立った
卒業を控えた佐藤実絵子、中西優香と、同じ舞台で演じる最後の『制服の芽』公演。この日、珠理奈もまたひとつの節目を迎えようとしていた
かつては「SKEの自分がAKBにいていいのかな…?」という思いが胸をよぎることもあったという
でも、人一倍責任感が強く、誰よりもチームと仲間を第一に思う彼女の純粋さは、次第にファンの間に浸透していった
アンチに叩かれていたデビューの頃とは、もう違う
今では大勢のファンが珠理奈を支え、「選抜総選挙でも1位になろうね!」と励ましている
そのことが彼女にひとつの決意をさせた
「選抜総選挙でも1位を狙う」。珠理奈は力強く宣言した
『大声ダイヤモンド』から7年。当時は何もわからないままセンターを務め、辛い経験を幾つもしてきた。その珠理奈が、選抜総選挙で1位を取り、AKB48のファンからも認められた上で、ポジションゼロを務めたいと言い切ったのである
道なき道を孤独に耐えて切り拓き、時に躓きながらも前へと進んできた珠理奈…これからの道程も、おそらくは険しい道であることだろう
そういう中で、珠理奈のファンはどこまで彼女を押し上げることができるのだろうか?
"孤高のセンター"松井珠理奈にとって、決して負けられない戦いが、いよいよ幕を開けようとしている
参考文献
『ブブカ 2015年4月号』