◆周りを引っ張っていける人に

AKB48との兼任や総選挙第9位、『UZA』のWセンター就任、SKE48の単独紅白出演と、2012年は松井珠理奈にとって実りの多い年であったが、反面、体調不良に悩まされることも少なくなかった。まだ精神的にも肉体的にも成長途上。無理が重なれば、調子を崩すことも多い年頃である。あの時はセーブしておけば良かった…彼女自身、そう後悔することもあったというが、一方で「セーブしたら自分じゃない」という強い思いもあった

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明けて2013年。16歳となった珠理奈は、AKB48とSKE48それぞれのグループが持つ魅力を自分なりに咀嚼し、表現力に磨きをかけていった。渡辺麻友や島崎遥香といったAKB48の次世代センター候補と比較される機会も増えたが、そのことによって珠理奈の個性がブレることはなかったし、単に「センターに立ちたい」のではなく「AKB48を引っ張っていける存在になりたい」、そう思うようにもなっていた

ホームのSKE48ではメンバーの大量卒業を受けて組閣が敢行され、中西優香キャプテン率いる新生チームS、Kll、Eが始動。生まれ変わったSKE48の魅力を広くアピールしていく必要もあった

時に、不安に揺れることもあったに違いない。それでも、48グループをさらに発展させたいという強い思いが珠理奈の胸の内に芽生えていた

単なるSKE48のセンターから、48グループ全体を客観的に見ることのできる存在へ。ダイヤモンドの原石は、ひときわ輝きを増しつつあった

◆1位を目指してもいいんだ!

そんな中で迎えた6月8日の選抜総選挙。珠理奈にとっては5度目の挑戦である

第10位宮澤佐江、第9位小嶋陽菜、第8位高橋みなみ、第7位松井玲奈。上位と目されているメンバーの名前が次々に呼ばれていく

珠理奈は続く第6位。玲奈と揃って神7入りを果たし、SKEの躍進を強く印象付けた

登壇した珠理奈は涙を堪えることができなかった

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「私はSKE48に11歳から入って、今はSKE48とAKB48の兼任をさせて頂いているんですけれども、あの時オーディションを受けなくて、もしSKE48に入っていなかったら、今は客観的に総選挙をテレビか何かで見ているのかなと思うんですけれども…
このステージに立っていることが不思議なことだし、本当に"運命"なんだなっていう風に感じています
今まではがむしゃらに走ってこられたんですけれども、16歳になって、これからどうしていかなきゃいけないのかなと不安に思うこともあったんですけど、でもこうして、こんなにたくさんの方に見守っていただけて、応援していただけると思ったら、少し安心することができました
握手会でもたくさんの方から"今回は1位を目指そうね"って言って下さって、私も1位を目指してもいいんだな、口に出していいんだなって思うことができました!」

11歳のデビューの時からAKBファンのバッシングに耐えながら、SKE48のセンターとしては、皆を引っ張っていかなければならない。大人にも背負いきれないほどの重圧と戦い、強い自分でいようと懸命に頑張ってきた。そういう中で、自分がAKB48のセンターを目指していいのだろうかという思いは、常に彼女の胸の内にあった

私も、1位を目指してもいいんだ…

それは長年、強がりを言わなければならなかった少女が、大観衆の中で吐き出した本音であった

これからは48グループの一員として先頭を切っていける人になりたい
そして、SKE48はまだまだ先に進んでいくことができる…!

珠理奈の涙は、安堵と喜びにキラキラと輝いていた

◆姉からのエールを受けて

結構長いこと世代交代とか言われてますけど、そういう流れをイマイチ感じられないじゃないですか。去年で言うと麻友さんだけだったし。今年は、私もそれに続きたい。で、篠田さんたちお姉さんメンバーに「もう任せても大丈夫かな」って思ってもらいたいですね。若手はどんどん育ってるぞー!って。
『週刊SPA! 』より

前年のスピーチで篠田が語った「潰すつもりで来てください。私はいつでも待ってます」という言葉を受け、珠理奈は、その役目は昔から妹のように面倒をみてもらった自分でなくてはならないと感じていた

もちろん、大好きな先輩が卒業してしまうのは辛いことだ。でも、篠田を越えることが、珠理奈にとっては何よりの恩返しでもあった

だが、2013年の選抜総選挙で、篠田は珠理奈の総獲得票数に大きく水をあけての第5位。この年、珠理奈の思いは、結果には結びつかなかった

しかし、篠田の心に珠理奈の思いは十分に響いていた

「こんなにも後輩がすごく頑張っているんだなぁとすごく嬉しかったし、AKB48グループはまだまだ上に行けるんだなと実感しました。勢いのある後輩の姿を見ていたら、私はひとつの決断をしようと思いました
私、篠田麻里子は、AKB48を卒業します」

後輩の頼もしい言葉を聞いて、48グループはまだまだ上を目指せる…そう感じたという篠田の言葉は、先輩としての愛情に溢れていた

選抜総選挙のシングル『恋するフォーチュンクッキー』の収録を終え、篠田の卒業セレモニーは7月21、22日のドームツアー福岡公演に決まった。珠理奈は、篠田との思い出の数々をコンサートのMCで語った

『大声ダイヤモンド』のPV撮影で心細かった自分に最初に声をかけてくれたのが篠田であったこと、その後も色々と面倒をみてくれ、CDジャケットの撮影では「麻里子様ー!」という言葉がとっさに出てきたこと、2012年の選抜総選挙で「潰すつもりで来てください」とスピーチした時に真っ先に「私が行きます」と伝えにいったら、嬉しいと言ってくれたこと…

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あたかも本物の姉妹のように、仲良く微笑みを交わしつつ、篠田と珠理奈はステージを務めた。美しいドレスに身を包んだ篠田がファンに別れを告げて退場する、その瞬間まで…

篠田卒業後のドームツアー千秋楽前日、珠理奈は篠田のソロ曲『プラスティックの唇』を披露した

篠田本人から「珠理奈にやってもらえるなら本望だよ、可愛い妹だからね。よろしく!」とエールをもらってのパフォーマンス。そこには、姉の意志を受け継いで、一回り成長した珠理奈の表情があった

(続く)

参考文献
「週刊SPA! 2013年6月11日号」
「週刊プレイボーイ 2013 No.26」
「オリコンスタイル7/21」
シネマトゥデイ映画ニュース
「プレイボーイ2013まるごと一冊SKE48増刊号」
「FLASH2013まるっとSKE48スペシャル」