◆潰すつもりで来てください

2012年のAKB48選抜総選挙。松井珠理奈が9位のスピーチを終えた後も発表は続く。すでに卒業を発表した前田敦子は不参加。焦点は大島優子の牙城を崩すメンバーが現れるか、それと、急速に支持を伸ばしてきた5期生の指原莉乃がどこまで順位を上げるかであった

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板野友美、小嶋陽菜、高橋みなみ…AKB48を支えてきた1期生の名が次々と呼ばれる。そして、第5位に篠田麻里子。壇上に上がった篠田は、悔しさに涙を滲ませながら、ゆっくりと語りはじめた

「後輩たちに席を譲れという方もいるかもしれません。でも私は、席を譲らないと上に来られないメンバーは、AKBでは勝てないと思います」

篠田のスピーチに、順位の発表を待つ大島優子が頷く。壇上では珠理奈が、真剣な表情で篠田を見つめている

篠田はふっと優しい表情を見せ、言葉を繋いだ

「悔しい気持ち、すごくあると思います。正直、私も今びっくりして…少し悔しいです。でも、悔しい力を、私たちにぶつけてきてください。潰すつもりできてください。私はいつでも待ってます。そんな心強い後輩が出てきたならば、私は笑顔で卒業したいと思っています」

姉と慕う篠田の激励に、珠理奈は涙を零した。姉妹グループのメンバーでも上を目指していいんだ。それなら、自分が麻里子様の期待に応えられる「心強い後輩」になりたい…イベント終了後、珠理奈は真っ先に篠田の元に駆け寄った
「私、いきます。頑張ります!」
篠田が答える
「よかった。珠理奈にも、ちゃんと響いてたの?」
 

◆さよなら、あっちゃん。さよなら、仲間たち 

その年の夏の終わり、前田敦子がAKB48を卒業した
『大声ダイヤモンド』の時から珠理奈の相談相手になってくれた先輩。どんなに辛くてもステージを務めるプロ意識を自身の行動で教えてくれた先輩…グループは違えど、珠理奈にとって前田は、センターの重圧を共有した唯一無二の存在だった

先輩たちからのメッセージ、AKB48として活動するチームKでの経験…それらが少しずつ珠理奈の意識に変革をもたらした

AKBを兼任している手前、表立ってSKEのメンバーに「AKBを超えよう!」とは言い辛くなったし、同年秋にリリースされたAKBのシングル『UZA』では大島優子とのWセンターも務め、多忙のあまり大好きな劇場公演も「他のメンバーの足を引っ張るのではないか」と不安になったという

その一方で、珠理奈は「AKB48のセンターも務められるようになろう」「グループの将来を任せてもらえる存在を目指そう」と思うようになっていだけど

そんな珠理奈にとっても、またSKE48にとっても、2012年は飛躍の年になった
6月の選抜総選挙では64名中15名がランクイン。中でも「アンダーガールズ」と呼ばれる32~17位のグループの過半数はSKE48のメンバーで占められた。旧来の劇場も「専用劇場」として改修されることが決定した。いよいよAKB48のライバルに近づく時がやってきたーー
そう考えるファンは少なくなかったはずである

しかし、同年8月にはリーダーの平田璃香子、11月には矢神久美が相次いで卒業を発表。年末の紅白歌合戦では夢の単独出演を果たしたものの、翌2013年1月には、メンバー8名が一斉にSKE48を卒業することをファンに報告した

その中には、桑原みずき、高田志織、平松可奈子…珠理奈とともに汗と涙を流しながらSKEの基礎を作り上げてきた1期生の名が何人もあった

4月13日、14日。2日間に渡って開催された、地元愛知の日本ガイシホールコンサートは「変わらないこと、ずっと仲間なこと。」と銘打たれ、卒業メンバーへのはなむけのステージとなった

リハーサルの時から、珠理奈は泣いていたという

時には意見が衝突することもあったけれど、少しでもSKEを良くしようとひたむきに努力し、やがては家族のような関係になっていた1期生。その仲間たちが、自分たちの元から離れていってしまう…

胸の内に秘めようとしても、思いは溢れて止まらなかった

コンサートの初日には「手をつなぎながら」公演のユニット曲、『Glory days』を披露。その時の思いを、桑原は当時のブログでこう記している


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桑原・中西・珠理奈
みぃの中の、最強、最高のユニット
手をつなぎながら公演が終わってから、なかなか3人で披露する機会がなくて、でもガイシホールでやれて良かった!

手をつなぎながら公演で唯一、オリジナルメンバーが残っちゅうユニットでした
レッスンの時もリハーサルの時も切ない空気になるのが嫌で、なるだけ普通に、いつも通りやってきた
なんかこのユニットはこの3人でずっとやりたいって、自分で卒業決めたのに、そう感じてしまうユニットでした
向上心の塊やったね、うちら!
個性的で情熱的で頑固で一生懸命!
そんな「Glory days」が大好きでした!

優香ちゃん、珠理奈、今まで本当にありがとう
ギラギラした黄色い衣装に包まれた、ハットの似合う2人の笑顔、ずっと忘れんきね!(*^^*)


そして翌日のラストを飾る夜公演、平松は「制服の芽」の『思い出以上』でセンターを務めあげた

卒業コンサートのセットリストが伝えられた時、ダンスの苦手な平松は「無理です!」と断ったそうである。そんな平松を支えたのは、同じ1期生の桑原。レッスンをサポートし、珠理奈と木下有希子も平松を支えた

当時の平松のブログである

リハ直前まで弱気だった私に、じゅりなが
「かなちゃん本当に今までたくさん練習して思い出以上踊れるようになったじゃん!大丈夫だよ!」
っていってくれたんです
でね、ゆっことじゅりなが、リハの時に泣き出したんです(/ _ ; )
それをみて、2人もついてる!
みぃも教えてくれた
今まで応援してくれたファンの皆さんにこの曲でありがとうを伝えたい!
そう思ったんです

本番、出る前から涙が溢れて、ゆっことじゅりなにありがとうを伝えて
ステージに立った途端大きなどよめきが聞こえて
歌い出したらものすごい歓声がきこえました
今まで聞いたことのないほどの可奈子コールでした
この瞬間が思い出以上なのだと曲の意味がわかった気がしました
思い出以上がやれてよかった!


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大盛況のコンサートの最後、去りゆくメンバーたちを前にして、珠理奈は堪え切れずに大粒の涙をこぼした

大勢の仲間の旅立ち…コンサート初日にはSKE48初の組閣も行われた。SKE48も、珠理奈自身も、新しいスタートを切る時がやってきたのである

(続く)

参考文献
「SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK」
「グラビア ザ テレビジョン  2012年8月号」
「AKB48 東京ドームコンサート オフィシャルムック」
「前田敦子AKB48卒業記念フォトブック あっちゃん」
「BUBKA 2012年10月号 」
「Street Jack 2015年4月号」