◆あの子は、誰だ⁉︎

2008年。知名度と人気こそ徐々に上がってはいたが、当時のAKB48は”アキバ枠”という世間の先入観をまだ拭い去れずにいた。「会いに行けるアイドル」は、この時、アングラからメジャーへと飛躍する過渡期にあった

その年の10月、レコード会社を移籍したAKB48が約8か月ぶりにリリースしたシングルが『大声ダイヤモンド』。ファン待望のCDジャケットを飾ったのは、多くのファンが見も知らぬ、ひとりの少女だった
松井珠理奈、この時、11歳。

姉妹グループとして愛知県名古屋市に誕生したSKE48の第1期生であり、しかもAKB48のニューシングルで、前田敦子とのWセンターを務めるという驚愕の大抜擢であった


時計の針を少しだけ巻き戻そうー

その年の7月。48グループ全国展開の第1弾として結成されるSKE48のメンバー最終オーディションが、愛知県名古屋市で行われていた。49番目の珠理奈が歌唱審査に選んだ曲は、絢香の「三日月」。誰もが耳にしたことのあるヒット曲だ

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だが、いざその番が来ると、カラオケの機械が故障し、あげくに「 三日月」も入っていないという。順番を最後にされた珠理奈は、慌てて倖田來未の「anytime」を選曲。歌詞はしっかり覚えているのだからと、目を閉じ、精一杯、心を込めて歌った
その姿が、プロデューサー・秋元康氏の"ソナー"に引っかかった。既に合格者は大方決まっていたが、秋元氏はオーディションの最後に、とびきりの輝きを放つダイヤモンドの原石を見つけたのである


同日、秋葉原のAKB48劇場ではチームA公演が行われていた。最後に高橋みなみが「今日はSKE48の最終オーディションの日です。ある方と電話が繋がっています!」と言ったその後に、劇場に響いたのは秋元康氏の声であった

「最終オーディションで、すごい子がいました。絶対にスターになるでしょう。原石です!」

その言葉は、客席のファンのみならず、メンバーにとっても大きな衝撃となったのであった


◆麻里子様ーっ‼︎

『大声ダイヤモンド』の選抜リストを目にした時、メンバーたちは目を疑った。そこには「松井珠理奈」という見覚えのない名が記されていた。秋元康プロデューサーから事前に話を聞かされていた前田敦子が説明する。「SKE48の子だって。その子がセンターらしいよ」

AKBのメンバーたちが戸惑いを隠せないなか、珠理奈がAKBの選抜メンバーと合流できたのは、リリースの1か月前だった。凛とした佇まいで「よろしくお願いします」とお辞儀をする珠理奈の姿に、峯岸みなみはこんな印象を持ったという。「初めて珠理奈を見た時の印象は『シャキッとしてるな』って。それが私には『なるべくしてセンターになった』と思えたんです」
一方の珠理奈はどういう心境だったのだろう。後のインタビューで、彼女は11歳の小学生らしい等身大の胸の内を明かしている

「AKB48さんと初めて一緒に踊るのは本当に緊張しました。しかも、私が練習に行った時にAKB48さんはほとんど完璧な状態で、ついていけないとヤバイと思いました」

SKE48の杮落とし「PARTYが始まるよ」公演のレッスンも重なって、珠理奈は不安に押し潰されそうになっていた。SKEのメンバーに隠れて涙することもあったという。それでも、胸には秘めた決意があった。それは、公演のレッスン初日にSKEのメンバーと誓った「AKB48を超える!」という目標。そして、自分がAKBの選抜として出ていくことは「SKE48の存在を多くの人に知ってもらえる」ことに繋がるんだという、SKEを愛する献身にも似た思いであった

経験者揃いのAKB選抜のなか、新人で最年少の珠理奈は自分がミスをする度に、申し訳なさと悔しさを感じ、ひとり苦しんでいた。ある時、全員で振りを合わせる練習で、自分の立ち位置がわからなくなり、頭の中が真っ白になった。その時、珠理奈の背中をポンと押し、「そっちじゃない。こっちだよ」というように立ち位置を教えてくれたメンバーがいた

それは、今も珠理奈が実の姉のように慕う篠田麻里子だった。「この人が背中を押してくれなければ頑張れなかった」というほど、その時の珠理奈にとって、篠田の手は温かいものだった

先輩たちに迷惑をかけるまいと、人一倍責任感の強い珠理奈は、休憩中も食事を取らずにレッスンをしていた。そんな時にも、篠田は優しく声をかけ、弁当を持ってきてくれた。メイクの時も遠慮がちにしていると「珠理奈を先にやってあげて」と気遣った。珠理奈のサインを一緒に考えたのも篠田。『大声ダイヤモンド』のジャケット撮影の時に、珠理奈が「麻里子様ーっ!」と叫んでいる写真が使われたのは有名なエピソードである

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篠田自身は、当時の珠理奈をどう見ていたのだろうか

「誰も辛く当たることはなかったけど、最初はどうしても孤立してしまいがちだった。その姿を見ていたら胸が苦しくなって、なんとかしてあげたいと思いました」

篠田自身もAKB48の1期生オーディションに落ち、カフェのアルバイトから人気投票で抜擢されてメンバー入りした経歴を持つ。一から手探りでチームを作り上げたメンバーから見れば「何でこの子が入ってくるの?」という気持ちになるに違いない。相手の立場になって考えることができるからこそ、篠田はオリメンたちとの間に壁を感じ、居心地の悪い思いをしてきたのだ

「私だけ、どうして後から入っちゃったんだろう……そんな寂しかった当時の自分を珠理奈にだぶらせていたのかもしれません。だけど珠理奈は私ではない。私が変に気を使ったら、余計に嫌な思いをさせるかもしれない。私が話しかけて、珠理奈が答えてくれるとも限らない……そう躊躇っていた時に、母の言葉を思い出しました」

見返りを求めるなら、やらないほうがいい。人に優しくする時は、自分のためじゃなく、その人のためにやりたいからやるんだと思いなさい。そんな母の言葉に背中を押されるように、篠田は珠理奈に声をかけた

「珠理奈が来てくれて、嬉しいよ」

それは、あたかも、かつての自分に語りかけるように……

(続く)

参考文献
「AKB48ヒストリー 研究生公式教本」
「プレイボーイ2013まるごと一冊SKE48増刊号」
「FLASH2013 まるっとSKE48スペシャル増刊号」
「週刊朝日 AKB48あなたがいてくれたから リレーインタビュー第4回」
「AKB48ヒストリー 研究生公式教本」
「SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK」
「プレイボーイ2013 まるごと一冊SKE48増刊号」