◆松井玲奈という存在
SKE48初のシングル『強き者よ』。王道アイドル路線とは一線を画すこのタイトルは、デビューから続く松井珠理奈の「戦い」を象徴するものでもあった
楽曲をもらった当時、珠理奈もそう感じたという。「私たちは強き者にならなきゃいけないのか、戦わなければならないんだ、と思いました」
いつかAKB48を超えようーー。メンバーたちと誓い合った目標をファンも後押しした。公演の最後に歌うSKE48の『大声ダイヤモンド』を「勢いがあって良いね」と称賛する声に、珠理奈もSKEのメンバーたちも「自分たちはこれでいいんだ」と確信を持った
2009年秋には新公演『制服の芽』がスタート。レッスン期間はわずか1週間で、珠理奈のセンター曲『思い出以上』も当初は小道具を用いる予定だったが「珠理奈がいるんだから道具でごまかさないでダンスで勝負して」と、秋元康氏から直前に修正が入った。グループ屈指のハードなパフォーマンスを求められるセットリストだったが、珠理奈をはじめチームSのメンバーは苦しみながらもこの公演を徐々に自分たちのものにしていった
ここまでバッシングに耐えながら、ひたむきに頑張ってきた珠理奈。その目の前に、もうひとつの壁が立ち塞がることになる。SKEのW松井と称される松井玲奈の存在である
「珠理奈以外のSKE48のメンバーで最初にセンターになりたいと思ったのは、私なんじゃないかと思うんです」
そう語る玲奈は、第1回AKB48選抜総選挙で29位、第2回は10位の珠理奈に迫る11位に順位を伸ばしてきた。しかもその年の7月に開催されたSKE48初のリクエストアワーでは、玲奈のソロ曲『枯葉のステーション』が第1位に輝く
年齢も違えば性格も正反対。目指す方向も異なるふたりをライバルと見なすファンが増えていくことに、珠理奈は戸惑っていた。名字が同じだけなのに、なぜ比べられるのだろう…。先にAKB48の選抜に入っていた分、気にせざるを得なかった。テレビの収録で失敗したり、 公演でダンスの振りを間違えたり…そんな小さなミスも重なって、傷だらけの少女の心は悲鳴を上げていた
もう、これ以上は無理かもしれない…
「少しだけ考える時間が欲しい」ある日、珠理奈はスタッフにお願いして半日の休みをもらった。しかし、考えれば考えるほど、気持ちは底なしの泥沼に引き込まれていった。自分は芸能界に向いていないかもしれない。もうメンバーにもスタッフにも会いたくない…。結局、その日は一日、家を出ることができなかった
そんな珠理奈を奮い立たせたのは、デビューから陰で珠理奈を支えてきた、彼女の母の言葉であった
仕事から戻って、ベッドにくるまったままの珠理奈を見て、彼女の母は叱咤した
「明日は絶対、仕事に行きなさい! 行ってジタバタしてきなさい!」
それは珠理奈が初めてもらったユニット曲『Glory days』のフレーズでもあった
もっとジタバタしながら
あちこち傷を作ればいい
First time 痛くたって
いつかカサブタになるだろう
血を流したその後は
強い自分になれるはず…
まだ頭で考えても答えを出せないこともある。それができないうちは、進まなければ見えないこともあるんだと、そう言った後に、母はパソコンの画面を珠理奈に見せた
「みんな、待ってるよ」
そこには、珠理奈のブログのコメント欄に書き込まれた大勢のファンの温かい声があった。珠理奈の頬を熱い涙が伝った
明日は行こう。大人ぶってないで、ジタバタしよう…
13歳の少女は、再び、自分との戦いに臨もうと決めた
◆悪夢の総選挙
2011年3月にはSKE48の5thシングル『バンザイVenus』が初のオリコン・ウィークリーランキング1位を獲得。ドラマ『マジすか学園2』では主要キャラクターのひとり「センター」役を演じ、渡辺麻友(ネズミ)とともに「センネズ」コンビと呼ばれるようになる
だがこの年も、松井珠理奈にとっては厳しい戦いを強いられる一年となった
ドラマ収録中にも体調不良が報じられ、コンサートも一部欠席するなど、決してベストとはいえないコンディションで迎えた第4回のAKB48選抜総選挙。SKE48の顔として、ひとつでも上位にいかなければという本人の思いとは反対に、珠理奈は14位にランクダウン。一方の松井玲奈は10位に順位を上げた。ファンの前では涙を流すまいと気丈に「どのポジションにいっても皆さんに感謝の気持ちをお伝えすることができるよう、自分の居場所があることに感謝して、一歩一歩進んでいきたいと思います」とスピーチしたが、舞台裏では中西優香、桑原みずきに支えられながら悔しさに号泣する珠理奈の姿があった
その時の様子を、桑原はブログでこう記している
…ステージには少し大人になった珠理奈がいました。でも珠理奈の気持ちは痛いほど分かったし、みぃはすごい悔しかった
選挙後のインタビューでは「SKEでも努力すれば、総選挙の舞台に上がれる。何よりも自分たちは間違っていなかったって、メンバー全体にすごく刺激になったと思います。今後もみんなで高め合っていきたいです」とSKE48の飛躍を期す気持ちを語ったが、その陰で責任感の強い珠理奈は「自分がセンターでいいのだろうか?」と、苦悩していくことになる
ちなみにSKE48の支配人・湯浅洋氏は、エースの珠理奈がメディア選抜から落ちたことの痛手を語るとともに、こうも話している
「今回はこうなったけど、珠理奈はまた絶対違う形で出てくると思う」
「今まで必要以上にパワーを出してたけど、弱いところを見せても良いと思うし、だからメンバーは守ってあげて欲しい」
SKE48の人気が徐々に全国へと広がりを見せていくのとは対照的に、珠理奈は一年を通して体調不良に悩まされ続けた
常に、心身ともに全力で仕事に臨まなければならない
そんな幼いプロ意識を、我々は責めるべきではないだろう。わずか11歳でAKB48の中心に放り込まれ、それと同時に、誕生したばかりのSKE48のセンターという重圧を背負ってきた少女なりの、精一杯の結果であったのだから…
その証左として、この年、14歳となった珠理奈のバースディに、メンバーから贈られたブログ等のメッセージの一部を紹介しておきたい
平田璃香子(チームSリーダー)「デビュー当時の写真から見ると…じゅりたん、ちょっぴり大人な雰囲気になったなって思います。きっとそれは…りかこ達にもわからないくらいの見えない努力やプレッシャーに負けず、SKEの代表としてのお仕事など、多くの経験があったからだと思います。じゅりたんはすごい。この前『スター姫さがし太郎』の珠理奈密着!珠理奈大陸を見て…すごいそう思ったの!」
佐藤実絵子「小学生だったじゅりなも、もうすぐ中3ですねー。しみじみ(=´∀`=)私たちSKEは、じゅりなの大きなパワーに引っ張られてここまで来ました。私も同じ一期生の仲間!頑張りやさんのじゅりなが大好きです♪ これから先も、じゅりなの毎日が輝いていますように」
桑原みずき「前、楽屋で珠理奈がいきなり『あたしのアンダーはみぃじゃないと嫌なの』って泣きながら言ってくれたことがあって…その時はびっくりしたけど、みぃも泣きそうになるくらい嬉しくて、笑ってありがとうって言った。その時からもっとステージで輝けるように頑張ろうと思ったし、体調が悪くても珠理奈の言葉を思い出せば、平気になった。ホテルの部屋や、待ち時間に見る珠理奈はたまにプレッシャーに押し潰されそうになっちょったり、体調を崩しちょったり、本当にしんどい時もあるがやろうなって思う。それでも頑張る珠理奈にみんな励まされゆう。いつも全力投球な珠理奈が大好き‼︎ 負けず嫌いで、絶対に弱音を吐かん。最初の頃から変わらん、珠理奈のいいところです」
高田志織「4月から中学三年生になるって聞いて、本当にビックリした!大きくなったんだなって。ついこの間まで、小学生だったのに早いもんですな。お母さんみたい?笑 じゅりなのひとつひとつのお仕事を絶対に妥協しないところ…格好いいと思う! しっかり者のじゅりなだけど、お姉ちゃんメンバーには甘えていーんだぞ。これからもじゅりならしくね‼︎ 」
(続く)
参考文献
「SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK」
「プレイボーイ2013 まるごと一冊SKE48増刊号」
「AKB48総選挙 水着サプライズ発表2011」
「BUBKA 2011年8月号」
「FLASH2013 まるっとSKE48スペシャル増刊号」
「週刊朝日 AKB48あなたがいてくれたから リレーインタビュー第4回」
「street Jack 2015年4月号」
SKE48初のシングル『強き者よ』。王道アイドル路線とは一線を画すこのタイトルは、デビューから続く松井珠理奈の「戦い」を象徴するものでもあった
楽曲をもらった当時、珠理奈もそう感じたという。「私たちは強き者にならなきゃいけないのか、戦わなければならないんだ、と思いました」
いつかAKB48を超えようーー。メンバーたちと誓い合った目標をファンも後押しした。公演の最後に歌うSKE48の『大声ダイヤモンド』を「勢いがあって良いね」と称賛する声に、珠理奈もSKEのメンバーたちも「自分たちはこれでいいんだ」と確信を持った
2009年秋には新公演『制服の芽』がスタート。レッスン期間はわずか1週間で、珠理奈のセンター曲『思い出以上』も当初は小道具を用いる予定だったが「珠理奈がいるんだから道具でごまかさないでダンスで勝負して」と、秋元康氏から直前に修正が入った。グループ屈指のハードなパフォーマンスを求められるセットリストだったが、珠理奈をはじめチームSのメンバーは苦しみながらもこの公演を徐々に自分たちのものにしていった
ここまでバッシングに耐えながら、ひたむきに頑張ってきた珠理奈。その目の前に、もうひとつの壁が立ち塞がることになる。SKEのW松井と称される松井玲奈の存在である
「珠理奈以外のSKE48のメンバーで最初にセンターになりたいと思ったのは、私なんじゃないかと思うんです」
そう語る玲奈は、第1回AKB48選抜総選挙で29位、第2回は10位の珠理奈に迫る11位に順位を伸ばしてきた。しかもその年の7月に開催されたSKE48初のリクエストアワーでは、玲奈のソロ曲『枯葉のステーション』が第1位に輝く
年齢も違えば性格も正反対。目指す方向も異なるふたりをライバルと見なすファンが増えていくことに、珠理奈は戸惑っていた。名字が同じだけなのに、なぜ比べられるのだろう…。先にAKB48の選抜に入っていた分、気にせざるを得なかった。テレビの収録で失敗したり、 公演でダンスの振りを間違えたり…そんな小さなミスも重なって、傷だらけの少女の心は悲鳴を上げていた
もう、これ以上は無理かもしれない…
「少しだけ考える時間が欲しい」ある日、珠理奈はスタッフにお願いして半日の休みをもらった。しかし、考えれば考えるほど、気持ちは底なしの泥沼に引き込まれていった。自分は芸能界に向いていないかもしれない。もうメンバーにもスタッフにも会いたくない…。結局、その日は一日、家を出ることができなかった
そんな珠理奈を奮い立たせたのは、デビューから陰で珠理奈を支えてきた、彼女の母の言葉であった
仕事から戻って、ベッドにくるまったままの珠理奈を見て、彼女の母は叱咤した
「明日は絶対、仕事に行きなさい! 行ってジタバタしてきなさい!」
それは珠理奈が初めてもらったユニット曲『Glory days』のフレーズでもあった
もっとジタバタしながら
あちこち傷を作ればいい
First time 痛くたって
いつかカサブタになるだろう
血を流したその後は
強い自分になれるはず…
まだ頭で考えても答えを出せないこともある。それができないうちは、進まなければ見えないこともあるんだと、そう言った後に、母はパソコンの画面を珠理奈に見せた
「みんな、待ってるよ」
そこには、珠理奈のブログのコメント欄に書き込まれた大勢のファンの温かい声があった。珠理奈の頬を熱い涙が伝った
明日は行こう。大人ぶってないで、ジタバタしよう…
13歳の少女は、再び、自分との戦いに臨もうと決めた
◆悪夢の総選挙
2011年3月にはSKE48の5thシングル『バンザイVenus』が初のオリコン・ウィークリーランキング1位を獲得。ドラマ『マジすか学園2』では主要キャラクターのひとり「センター」役を演じ、渡辺麻友(ネズミ)とともに「センネズ」コンビと呼ばれるようになる
だがこの年も、松井珠理奈にとっては厳しい戦いを強いられる一年となった
ドラマ収録中にも体調不良が報じられ、コンサートも一部欠席するなど、決してベストとはいえないコンディションで迎えた第4回のAKB48選抜総選挙。SKE48の顔として、ひとつでも上位にいかなければという本人の思いとは反対に、珠理奈は14位にランクダウン。一方の松井玲奈は10位に順位を上げた。ファンの前では涙を流すまいと気丈に「どのポジションにいっても皆さんに感謝の気持ちをお伝えすることができるよう、自分の居場所があることに感謝して、一歩一歩進んでいきたいと思います」とスピーチしたが、舞台裏では中西優香、桑原みずきに支えられながら悔しさに号泣する珠理奈の姿があった
その時の様子を、桑原はブログでこう記している
…ステージには少し大人になった珠理奈がいました。でも珠理奈の気持ちは痛いほど分かったし、みぃはすごい悔しかった
選挙後のインタビューでは「SKEでも努力すれば、総選挙の舞台に上がれる。何よりも自分たちは間違っていなかったって、メンバー全体にすごく刺激になったと思います。今後もみんなで高め合っていきたいです」とSKE48の飛躍を期す気持ちを語ったが、その陰で責任感の強い珠理奈は「自分がセンターでいいのだろうか?」と、苦悩していくことになる
ちなみにSKE48の支配人・湯浅洋氏は、エースの珠理奈がメディア選抜から落ちたことの痛手を語るとともに、こうも話している
「今回はこうなったけど、珠理奈はまた絶対違う形で出てくると思う」
「今まで必要以上にパワーを出してたけど、弱いところを見せても良いと思うし、だからメンバーは守ってあげて欲しい」
SKE48の人気が徐々に全国へと広がりを見せていくのとは対照的に、珠理奈は一年を通して体調不良に悩まされ続けた
常に、心身ともに全力で仕事に臨まなければならない
そんな幼いプロ意識を、我々は責めるべきではないだろう。わずか11歳でAKB48の中心に放り込まれ、それと同時に、誕生したばかりのSKE48のセンターという重圧を背負ってきた少女なりの、精一杯の結果であったのだから…
その証左として、この年、14歳となった珠理奈のバースディに、メンバーから贈られたブログ等のメッセージの一部を紹介しておきたい
平田璃香子(チームSリーダー)「デビュー当時の写真から見ると…じゅりたん、ちょっぴり大人な雰囲気になったなって思います。きっとそれは…りかこ達にもわからないくらいの見えない努力やプレッシャーに負けず、SKEの代表としてのお仕事など、多くの経験があったからだと思います。じゅりたんはすごい。この前『スター姫さがし太郎』の珠理奈密着!珠理奈大陸を見て…すごいそう思ったの!」
佐藤実絵子「小学生だったじゅりなも、もうすぐ中3ですねー。しみじみ(=´∀`=)私たちSKEは、じゅりなの大きなパワーに引っ張られてここまで来ました。私も同じ一期生の仲間!頑張りやさんのじゅりなが大好きです♪ これから先も、じゅりなの毎日が輝いていますように」
桑原みずき「前、楽屋で珠理奈がいきなり『あたしのアンダーはみぃじゃないと嫌なの』って泣きながら言ってくれたことがあって…その時はびっくりしたけど、みぃも泣きそうになるくらい嬉しくて、笑ってありがとうって言った。その時からもっとステージで輝けるように頑張ろうと思ったし、体調が悪くても珠理奈の言葉を思い出せば、平気になった。ホテルの部屋や、待ち時間に見る珠理奈はたまにプレッシャーに押し潰されそうになっちょったり、体調を崩しちょったり、本当にしんどい時もあるがやろうなって思う。それでも頑張る珠理奈にみんな励まされゆう。いつも全力投球な珠理奈が大好き‼︎ 負けず嫌いで、絶対に弱音を吐かん。最初の頃から変わらん、珠理奈のいいところです」
高田志織「4月から中学三年生になるって聞いて、本当にビックリした!大きくなったんだなって。ついこの間まで、小学生だったのに早いもんですな。お母さんみたい?笑 じゅりなのひとつひとつのお仕事を絶対に妥協しないところ…格好いいと思う! しっかり者のじゅりなだけど、お姉ちゃんメンバーには甘えていーんだぞ。これからもじゅりならしくね‼︎ 」
(続く)
参考文献
「SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK」
「プレイボーイ2013 まるごと一冊SKE48増刊号」
「AKB48総選挙 水着サプライズ発表2011」
「BUBKA 2011年8月号」
「FLASH2013 まるっとSKE48スペシャル増刊号」
「週刊朝日 AKB48あなたがいてくれたから リレーインタビュー第4回」
「street Jack 2015年4月号」